冒頭は防犯カメラの訪問販売から始まります

講談社の公式試読で確認できる第一章の冒頭は、刺殺体との遭遇より前の場面です。鳥井は防犯カメラの訪問販売で、老人の大村と話をしています。鳥の巣にまつわる話題とスマートフォンの画像を使い、相手の関心を引こうとする様子が描かれており、これが物語の書き出しにあたります。

商品として扱われているのは防犯カメラですが、鳥井が会話に用いるのは鳥の巣の話題と画像です。商品の機能そのものに興味があるのか、それとも商品以外の話題で相手の関心を引こうとする働きかけに興味があるのか。この違いを意識すると、営業場面のどこを読んでみたいか考えやすくなります。売るものの説明と、話を聞いてもらうための働きかけを分けて見る読み方です。営業の入り口をどう作るかという視点に興味があるなら、注目してみる価値がある冒頭だと言えます。

殺し屋への交渉は、自分を雇わせる提案として持ち込まれます

公式紹介によれば、鳥井は訪問先で刺殺体を見つけて襲われ、口封じされかけます。鳥井はそこで、殺し屋の売上や営業事情へと話題を移します。そこから自分を雇うよう交渉を持ちかけ、殺人請負会社へ入社する設定が、公式の紹介文で示されています。

命が危ない状況で、自分を雇う提案に話を移すという発想に引かれるかが、導入から考えられる問いです。殺し屋を雇い主にしようとする話の持っていき方には、通常の売り込みとは異なる切迫した目的があります。相手の事情に着目して話題を変えていく展開そのものに関心があるかどうかが、この作品を選ぶ一つの目安になりそうです。

同じ仕事を、売る場面と雇われる場面の両方に持ち込みます

冒頭の防犯カメラの訪問販売と、殺し屋への交渉は、鳥井が同じ営業という職能を異なる状況に持ち込んでいる点で並べて読むことができます。前者は防犯カメラという商品を相手に届けるための働きかけであり、後者は自分自身を雇ってもらうための働きかけです。提案する対象が「商品」から「自分」へと変わっている点は、この作品の設定を捉えるうえで一つの手がかりになります。鳥井を営業マンとして見るなら売り込む内容に、危機にいる人物として見るなら生き延びるために何を提案するかに関心が向くでしょう。仕事の場面と危機の場面を別々に楽しみたいのか、両者がつながる設定に引かれるのかも、選ぶ際に考えたい点です。

商品を買ってもらう話から、自分に仕事を任せてもらう話へ。売り込む対象が変わったときに何を伝えるのか、という問いを持って選ぶこともできます。鳥井の仕事に興味があるなら、この提案対象の変化と、命を守るための交渉という目的を組み合わせて捉えると、単に営業マンが登場するという以上の選択材料になります。

職業小説としての関心と、暴力を含む導入との相性

営業マンの働き方を描く職業小説として関心を持つ読者と、殺し屋や殺人請負会社が絡む設定に関心を持つ読者とでは、この作品への期待の向き方が変わってきそうです。実務にそのまま役立つ知識を求めて読むのか、極端な状況の中で一つの職能がどう使われるかを見たくて読むのかによって、受け取り方は異なるはずです。同じ営業という仕事を扱った作品でも、そこにどのような緊張感を求めるかによって、この作品との相性は変わってくるでしょう。

あわせて伝えておきたいのは、この作品の導入には刺殺体の発見や襲撃といった暴力の要素が含まれているという点です。営業という日常的な題材を扱いながらも、穏やかな職場の日常を描く小説とは性質が異なりますので、そうした場面を求めていない読者には合わない可能性があります。

『殺し屋の営業術』が気になるかどうかは、相手に話を聞いてもらう入口の作り方に興味があるか、それとも自分を雇わせる提案へと話題を転じていく展開に興味があるかによって変わりそうです。どちらの着目点が自分に近いかを手がかりに、手に取るかどうかを考えてみてはいかがでしょうか。

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